『茉莉が社員で働けるところを探しているから、兄さんのところで面接してもらえないかなと思って』

「社員って、大学はどうするんだ?」

茉莉は美由紀と同じ美大の三年になったばかりで、あと二年の在学期間があるはずだ。大学に通う経済的な余力がないってことか?

『できれば続けたいようだけど、経済的に難しいみたい。それにいずれ家も出なくちゃいけないみたいで……』

「それで、自分で金を稼ごうって結論に至ったわけか」

『うん、そういうこと。仕事に生きるんだ! って、がぜん張り切ってたわ』

思い出したように、美由紀は小さくクスリと笑う。

「しかし、日本でも屈指の規模を誇っていた運送会社の社長令嬢とも思えないたくましさだな」

ピンチに落ち込むのではなく、それを跳ねのける茉莉の打たれ強さを感じて、思わず口の端があがる。

俺の記憶にある篠原茉莉は八歳のあどけない少女のままだが、現在の茉莉はかなりたくましく成長したようだ。

『ふふふ。美しく成長した紫の上を愛でられるチャンスよ、光源氏さま』

からかいモードに突入した美由紀は、愉快気にクスクスと笑いだした。

以前、『十代のころは、お隣の篠原さんちの茉莉ちゃんに癒されていた』とうっかり口を滑らせてから、美由紀は茉莉の話を聞かせてくるたびに『ロリコン兄貴』だの『光源氏』だのいってからかってくる。

言っておくが、俺はロリコンではないし、光源氏のように少女を自分好みの女に育てる危ない趣味もない。