『実は、茉莉のことで相談があるんだけどね……』

「茉莉――ちゃんのことで?」

篠原家の一人娘・茉莉とは、俺だけではなく美由紀とも妙な縁があった。

高校で「面白い友達ができたの」と話を聞かされて、それが「お隣に住んでいた篠原さんちの茉莉ちゃん」だと気づいたときには、さすがに驚いた。

子供のころ体が弱かった美由紀は、あまり学校に行けていない。

中学に上がるころにはだいぶましになってきたが、それでも学校は休みがちで、親しい友人がいなかった。

美由紀から直接聞いたことはないが、これは『友人ができなかった』というよりはむしろ『友人を作らなかった』という側面があるのではないかと俺は見ている。

「大企業谷田部グループの一族であるホテル王・谷田部彰成の一人娘」

そのレッテルが、純粋な友人関係を築く枷になっただろうことは、容易に想像がついた。

そんな美由紀が折に触れて、うれしそうな笑顔を浮かべながら茉莉のことを聞かせてくれるのを、俺も楽しみにしていたものだ。

『茉莉のお父さんの会社が倒産したことは、知ってる?』

「ああ、あれだけマスコミが騒げばな」

茉莉の母、佳代さんは四年前に亡くなっていて、篠原家は父と娘の二人きりだと聞いている。

あの優しい人たちが窮地に追いやられているのは心が痛んだが、だからと言って俺にできることはないだろう。