『ヤッホー。ご無沙汰の美由紀ちゃんですよ』

「ヤッホーじゃないだろう。具合が悪いそうだが、大丈夫なのか?」

美由紀は実の母親に似て、よく熱を出しては入退院を繰り返すような体の弱い子供だった。

大きくなってからは、入院に至ることは少なくなったが、やはり体調を崩しやすいのは否めない。

『うん、大丈夫。急にアルバイトいけなくなってごめんね、社長さん』

「それは別にかまわないが、あまり無理をするなよ? おふくろも、お前のことは気がかりなんだからな」

『わかってるって。咲子ママには、後でちゃんと電話入れるから』

前妻の娘である美由紀とおふくろは「なさぬ仲」だが、世間で言われるような確執めいたものはほとんどない。

美由紀も現在は、おふくろと俺が自分にとってどんな存在なのか知っているが、悪感情を俺たちに向けることはなかった。

むしろ、「こんないい人たちに苦労を強いていたあなたは許せない」と、きっぱり親父本人に向かって言い切ったほどだ。

俺と美由紀に流れる血の半分は、軽蔑する谷田部彰成から受け継いだものだと考えるとかなり複雑だが、やはり、俺と美由紀は血を分けた兄妹。

「気に入らないものは、気に入らない」とすっぱり切り捨てる竹を割ったような性分が良く似ている。

「それで、どうしたんだ? 何か困っていることがあれば、遠慮なく言えよ」

『うふふ。なんだかんだ言っても、お兄様は優しいから好きよー』

「何がお兄様だ気色悪い。彼氏の悪いところがうつったんじゃないのか?」

目下、美由紀は家を出奔(しゅっぽん)して、アルバイト生活の末、意中の彼氏と同棲中だ。