会食は、つつがなく和やかな雰囲気で幕を閉じた。
帰りの車中、足を挫いて運転できない私のために運転手をなさっているのは、社長さま。
助手席から、一見、不機嫌そうに見えるその横顔を見上げる。
その視線に気付いた社長は、視線を前方に固定したまま「なんだよ?」と、不機嫌そうに呟きを落とす。
でも今の私には、その不機嫌さが『ポーズ』だと分かってしまう。
連動して、ニンマリと頬の筋肉もゆるんでしまった。
「なんだよ、気持ち悪い笑い方をして。捻挫したのは、足じゃなくて脳みそのほうなのか?」
「違いますよ。実は、薫さんに、いいこと聞いちゃったんです」
「……いいこと?」
「はい。社長は、『ツンデレ』だから、一度自分のテリトリーに入った人間には、めちゃ甘になるって」
「……あんのやろう。余計なことを」
美しい元妻に対するには乱暴すぎる言葉を吐いて、社長は、口元に苦笑を浮かべる。



