「すみません。連れが、足を痛めてしまったようで……」
恐縮したように、社長は言う。
「まあ、それはいけないわね。大丈夫、あなた?」
「あ、はい大丈夫です」
初対面のご挨拶をする前に、心配されてしまった。
大切な接待の場を私のドジのせいで台無しにはできない。
私は慌てて、社長に小声で訴える。
「大丈夫ですから。もうぜんぜん痛くないですから」
ちらりと私の顔を見た社長は、総支配人さんを手招きした。
「すまないが、この人を医務室に連れて行って、薫に診させてくれないか。右足首をねん挫したようだ」
――うん?
今、『かおる』って言った?
鼓膜を通り過ぎて言った言葉の中に、妙に聞き覚えのある名前を聞いた気がして、私は眉根を寄せる。
「右足首をねん挫したようだ」
「承知いたしました、お伝えします」
『さあ、こちらへどうぞ』
総支配人さんに逆らい難い満面の笑顔で手を差し出された私は、この場に留まることを断念した。
実を言えば、右足首が、かなりズキズキと痛み出していた。



