だだっ広い部屋の中を興味津々で見まわしながら二人の会話を聞くともなしに聞いていた私は、総支配人さんが言ったあるワードに、ぎょっと身を固めた。
身体は動かないのに身の内にある心臓だけが、急に熱心に仕事をし始める。
ドキドキと早まる鼓動を感じながら、私は、ノロノロと考えを巡らせる。
『奥様』と、総支配人さんは言った。
一般的に、既婚者の女性を指す言葉だけど、問題はそれが『誰の奥様』なのかだ。
――まさか。
まさか、『社長の奥様』とかじゃないよね?
自分の考えに、ドキリと、心臓の音一際大きく跳ね上がる。
――それはないよ。
だって、大株主だって、
大事なお客様との、接待の食事だって、
社長は、そう言ってたもの。
そう、これは、あくまで『ビジネス』であって、プライベートじゃない。
もしも、接待の相手が社長自身の奥さんなら、こんな回りくどいことしなくてもいいはず。



