「亀子さぁん……」

夢と現の狭間でたゆたいながら、今や、立派な甲長二十センチ超えの大人に成長した愛亀の名を、私は呟いた。

瞬間、右頬に走った鋭い痛みに、強引に現実に引き戻される。

――痛い。

だれだ、人のほっぺたをつねるやつは!

って、

「あれ……?」

私、何してたんだっけ?

というか、ここはどこ?

痛みの走った頬をナデナデしつつ人の気配がする右側にぼんやりと視線を巡らせれば、銀縁メガネの奥から鋭い眼光を放ち、私を睨み下ろす不動明王様と視線がかち合った。

「助手席で爆睡をかますとは、ずいぶんな余裕だな」

地を這うような低い声音にひくっと、浮かべようとした愛想笑いが、盛大にひきつる。

――なにがどうして、

あの優しかった祐兄ちゃんが、目の前にいる不動明王に化けたんだろう?

解せない。

私は、世の不条理を、肌でひしひしと感じた。

「すみません、社長の運転があまりにパーフェクトだったので、つい気持ちよくって……もう着いたんですね」

とウインドウから外を見渡せば、なにやら、脳裏に過る既視感。