「おじさん、今のセーフだよね?」

祐兄ちゃんはニコニコ笑顔で、お店のオジサンにカップの中に入った子亀を掲げてみせた。

「ああ、セーフだよ」

カラカラと豪快に笑った後、オジサンは『でもなぁ』と、少し眉根を寄せて言いよどむ。

「その亀はちっと元気がないから、育たんかもしれんなぁ。元気なのとかえてやっから、好きなのを選んでいいぞ、嬢ちゃん」

「え……?」

『元気がないから育たない』

幼いながら、私は、その言葉の意味をなんとなく悟った。

でも。

きっと、そんなことない。

この子は、ぜったい、元気に大きくなる。

そんな、脈絡のない自信が、湧いてくる。

私は、祐兄ちゃんの持つカップの中で、こちらを見上げて来る小さな亀と見つめ合った。

つぶらな瞳は、『私を連れていって』、そう訴えている気がした。

出会いに『運命』というものがあるのなら、たぶん、これはまさしく『運命』に違いない。

「ううん、私、この子がいい!」

そしてそのとき、私はすでにこの亀さんの名前を決めていた。