「すまん、茉莉(まり)。……会社が倒産した」

いつもと変わらない、父娘二人きりの、夜の食卓。

今日のメニューの『特製手作り野菜コロッケ』を、鼻歌交じりにダイニング・テーブルの上に並べ終えた私、篠原茉莉は、いつもの席に鎮座していた父、徳太郎がおもむろに発したその言葉に全身をこわばらせた。

「え……?」

揚げたてコロッケの香ばしい匂いに包まれながら、じっくり三秒後、間抜けな声を上げる。

父の言葉の意味を理解したからではなく、出来なかったから。

『会社がトウサン』

――お父さんは、会社の社長でしょ?

会社が、父さんするって、意味不明。

クエスチョンマークが、脳内をぐるぐると回る。

私は父親譲りのドングリまなこを見開き、その顔を、ぽかんと見つめた。