「何をやっている?」
至近距離で耳元に響いてきたため息交じりの低い声音に、身体全体がピキリと固まる。
鼻腔に届くほのかに甘い柑橘系の香りが、記憶中枢網の端っこに埋もれている『何か』を呼び起こそうとする。
――あれ、この香り……。
前にも、嗅いだことがある?
でも、
それが何なのか思い出すことよりも、
今、目の前に直面している、自分を襲っているこの状況を理解することの方が先決だ。
身体全体をすっぽり包む、その束縛と温もりの正体を、まだショックから抜け切らない脳細胞で、ノロノロと分析する。
腰に回されているのは、リーチの長い、力強い腕。
街灯の薄明りでもわかる、目の前には、見覚えのあるダークグレーのスーツと濃紺のネクタイ。
「……え?」
――社長に、助けられた?
というか、抱き留められた?



