鍵を回せば、いつもより遠くで低いエンジン音が上がった。
伝わってくる微弱な振動に否が応でも緊張が高まり、ハンドルを握る両手のひらに、じっとりと汗がにじんでいく。
カーオディオから響いてくるBGMは、やたらと高音質の女性ボーカルが歌う、なんとなく聞き覚えがある軽快な洋楽ポップス。
「まずは国道を左に出て、市街地に」
「は、はいっ」
国道を左に、市街地へ。
指示された道順を脳内反芻し、ゴクリと緊張を飲み下す。
――軽自動車も高級国産車も、車は車。
ちょこっとばかり横幅が広くて、縦に長いだけ。
ハンドルは一つ、
アクセルとブレーキも一つずつ、
運転できないはずはない。
たいていの乗り物は運転できそうな最強の論理を自分に言い聞かせ、前方をまっすぐ見据える。
――女は度胸だ、
よし、
行け、茉莉っ!



