そして、夕方4時。
「亀子さん、行って来るね!」
リビングのサイドボードの上の九十センチ水槽の水の中で、びろーんと手足を伸ばし、卍の形で眠っている、ミドリガメの亀子さんに声をかける。
にょーんと、顔を水面から出して、
『はい、行ってらっしゃい』と言うみたいに、私に視線を向けてくるそのしぐさに、思わず頬の筋肉がへにゃりと緩む。
本当、亀さんって、癒し系。
――よし、今日も、頑張るぞっ!
亀子さんに見送られて、
お気に入りの、ネイビーブルーのパンツスーツに身を包んだ私は、張り切って会社――、
緑の稲穂の真ん中にそびえたつ、灰銀の巨塔、
我が職場、ラブホテル・クロスポイントへと、張り切って向かった。