落とし終わったコーヒーは、社長自ら運んでくれた。
やっぱりこのコーヒーは、私に入れてくれるつもりだったのだ。
そう再認識して、思わずニヤニヤと頬が緩んでしまう。
社長室の応接セットのソファーに向かいあって座ると、一カ月前の面接のときのことが、昨日のことのように思い出された。
あの時はめちゃくちゃ緊張して、鼻血を吹いちゃったんだっけ。
恥ずかしい思い出にひたっていたら、
「美味いかどうかは、分からないが」
と、差し出された湯気の上がったコーヒーカップと、角砂糖とミルク。
せっかく社長自ら入れてくれたんだから、まず最初はブラックに挑戦してみようかな。
「いただきます」
香ばしい匂いをたっぷり堪能してから、一口、口に含んでみる。
ほろ苦い中にも、ほのかな甘みが感じられた。



