――ええっと、まさか、この状況は……。
ドジっ子の本領を発揮してスッ転んだ私を、誰かが身を挺して庇ってくれた?
誰が?
って、この状況で当てはまる人物は、たった一人だけ。
「社、社長!?」
恩人の雇い主様を、あろうことか座布団代わりに尻に敷いてしまった。
泡をくった私は振り向きざま、勢いよく立ち上がろうとした。
その刹那、グイッと強い力で引き戻される。
反動で、今度は顔から『バフン』と社長の胸元にダイビング。
ほのかな、柑橘系の爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。
――な、な、何っ!?
何なの、この状況!?
今度は顔が温かいのを通り越して、一気に熱くなる。
「いいから、少し落ち着け」
呆れたような、ため息交じりの低い声が、耳元に落とされる。



