あの日のきみを今も憶えている

「なに、これ……」


思わず呟いた私の小さな声は、ちゃんと姉に届いたのらしい。


「どうかした、ヒィ?」

「お姉ちゃ……なに、これ……」



震える指先で、美月ちゃんの方を指差す。
しかし姉は不思議そうに眼をしばたたかせ、「どうかした?」と訊いた。
明日香も、「どうしたの?」と不思議そうに言う。


……やっぱり、お姉ちゃんたちに美月ちゃんの姿は見えていない。


これは、美月ちゃんの幽霊?
私だけが、見えてるの?
でも、どうして?


誰にも見てもらえない美月ちゃんが、涙を拭いて周囲を見渡す。


「ねえ。誰かあたしが見えない? ねえ、お願い。あたしを見て。あたしに気付いて」


身を裂くような叫び。
斎場内に高く悲しく木霊するのに、反応する人はいない。

みんな、彼女の死に涙し、その悲しみに耐える遺族に同情するばかりだ。


「ねえ。お願い。あたしに気付いて、誰か、誰か――っ!」


彼女の絶叫に、私の心が悲鳴を上げる。
この場所で、彼女のこの叫びを聞いているのは、きっと私だけだ。

両親でも、園田くんでもない。
どうして、私だけ。


涙を手の甲で拭った彼女がきょろきょろと視線を彷徨わせる。
それが、一点で止まった。
私の視線と、かち合って。


「陽鶴、ちゃ……?」


悲しみで染まっていた瞳に、希望のような光が見える。


「もしかして、あたしのこと、見えてる……?」


見えてるよね⁉ そう叫んで駆け寄ってくる美月ちゃんの姿を見ながら、私は気を失った。