あの日のきみを今も憶えている

「美……ちゃ……?」


入り口から、園田くんに向かって真っ直ぐに駆けだしていくその子は、美月ちゃんに他ならなかった。


「あーくん! あたしここにいるよ! ここにいるの! ねえ、気付いて、あーくん!」


制服のスカートを確かに揺らして、長い髪を振り乱している。
幻でも何でもない。
それは、確かに美月ちゃん。

どうして?
だって美月ちゃんは死んで……。
祭壇には写真があって、その体は柩の中にいて……。


「あーくん! あたしはここだよ! ねえ、気付いて! お願い!」


美月ちゃんが園田くんに縋った。
はずだった。

しかし、美月ちゃんの体はするりと園田くんの体をすり抜けて、彼の座っている椅子もすり抜けた。
彼女は支えも何もなく、床に倒れ込む。

そして、園田くんも、彼を介抱している斎場職員さんも、彼女の両親も、それに気付いた様子はなかった。
美月ちゃんはまた体を起こし、園田くんに向かう。


「あたしここだよ! ねえ、あーくん! お母さん、お父さん! ねえ、あたし、ここにいるの!」


美月ちゃんは、園田くんを介抱する両親に向かった。
だけど、誰も美月ちゃんが見えていない。
声も、聞こえていない。
まるでそこに美月ちゃんがいないかのように、ただ、悲しみに暮れている。


これは、何……?
何なの……?
何が起こってるの……?