あの日のきみを今も憶えている

「……ん、む……」


耐えられない痛みに、目を開けた。

目を閉じていた、ということはさっきのは夢……?


視界には、見慣れない真っ白な天井が広がっていた。

え、なにここ。
どこ?
ていうか、私、どこで何してたんだっけ。


自分の置かれている状況が掴めない。
私は何度も瞬きを繰り返して、それから体を動かしてみた。

体の節々が痛む。
長く動かしていないような違和感があった。
それから、思うように動かない顔をどうにか動かして、周囲を見渡した。


「ここ、どこ……?」

「ヒィ⁉ 目が覚めたのね!」


私の顔をずいと覗き込んだのは、姉の千鶴だった。
泣いていたのか、目の周りを真っ赤にしている。


「あ、れ? お姉ちゃ……? 私、どうしたんだ、っけ……」

「事故に遭ったの! 意識取り戻さなくて、もう、心配で……」


わあ、と泣き崩れた姉の肩を抱いたのはワタルさんだった。
彼もまた目の縁を赤くして、私に「よかった」と言った。


「ホントによかった。僕、お義母さんたちに連絡してくるよ。さっき、家に帰ったばかりなんだ」

「え? あの、私……よく理解できなくて。事故って……?」


記憶があやふやだ。
私は何をしていて、ここにいるんだ?

ぱちぱちと瞬きを繰り返す私に、ワタルさんが「落ち着いて聞いてね」と言った。


「帰り道に、家の近くの交差点で、ヒィちゃんは事故に遭ったんだ。
居眠り運転のトラックが突っ込んできて、君は車に弾き飛ばされた」

「トラッ、ク……、事故……」


言葉にすると、少しずつ記憶が戻ってくる。
ああ、そうだ。
私は交差点を渡ろうとして、突進してくるトラックを見た。

そして、園田くんの『危ない』という叫び声を聞いた。


「え……ああ、そうだ。そう。トラックが来たんだ。私、びっくりして……」

「そう。それでね、君は幸いにも大きな怪我もなく、助かったんだよ。それでも、丸一日、目覚めなかった」

「うわああん、よかったぁぁーー!」


姉の泣き声がワタルさんの声に覆いかぶさった。