ぼくのことだけ見てなよ

それは、ほんの一瞬の出来事だった。美島の顔が意外に近くて、驚いて。

でも、優しい目で見つめられると、なぜだか動けなくなって。見つめ合う、目と目。

避けようと思えば、避けれたはず。逃げようと思えば、逃げれたはず。

なのに、美島から目が離せなくて、近付いてくるクチビルを、わたしは……受け入れてしまった。

けれど、すぐにハッ!として、思いきり立ち上がった。なにやってんだ、わたしっ。

美島は彼氏じゃない!なのに、なんで受け入れちゃったの!?どうして、拒否しなかったの!?

「椿姫、」
「……っ、」

美島が、なにかを言おうとした。したのに、わたしは聞こうともせず、全速力で逃げた。美島の前から消え去りたかった。

美島が追いかけてくることはなかった。わかってた。だって美島は、ただわたしにイヤな過去があると聞いて、きっと同情でキスをしただけ。

先輩たちとも、カラダの関係を持ってるくらいだもん。キスなんて、挨拶みたいなもののはず。