「そんで、これは俺の憶測だけど。焼き係は、二人選ばなきゃいけなかったんだけど、椿姫ちゃんを指名すれば、自然と仲良い那津ちゃんがくると思ってたんだと思うんだよね」

あー、なるほど。でも確かにそうかも。わたしと那津が仲良いのは、多分全員が知っていて、美島のファンたちも、わたしがやれば那津が立候補すると思ったのかもしれない。

「ところが、挙手したのが。この、パクパク飯食ってる美島楓くんだ」
「なに。今はごはんを食べる時間でしょ。ごはんを食べてなにが悪いのさ。それとフルネームやめてくれない?気持ち悪いから」
「お前なぁ…。今は、のんきに飯食ってる場合じゃねぇだろ。さらに、目つけられちゃってんじゃねぇかよ」
「なにか、モンダイでもあるの?」
「は…?お前、頭大丈夫か?」

あれ。やっぱり、ちょっとおかしいな。なんで今〝モンダイない〟みたいな言い方された時、イヤな気持ちになったんだろう。

でも、美島にとって、わたしはどうでもいいヤツなわけで。わたしが目付けられていようが、関係ないんだよね。

「及川、おかず。ちょーだい」
「え?あ、うん。……はい」
「ん。……やっぱ、卵焼き美味しい」
「……ありがと」

そんな中、美島におかずを求められ、戸惑いながらもお弁当のフタを開けて渡すと、真っ先に取ったのは卵焼きで、それを食べると満足気に笑った。

美島は、いつも卵焼きを最初に食べる。前に時間がなくて、卵焼きを作れなかった時〝あれ。今日は卵焼きないんだ〟って、残念そうな顔をしていて、それから毎日卵焼きを作ることにした。

「はぁ。お腹いっぱい。で?ぼくが立候補したから、及川が目付けられるって?」
「お、おぅ。だってそうだろ?聞いただろ?楓が立候補した時の、あいつらの悲鳴!」
「そ、そうなの?」
「やだ、椿姫ちゃん!それすらも聞いてなかったの?」
「……うん」

そんなに悲鳴があったんだ…。それに気づかないわたしって、ある意味すごいような気がするんだけど…。