ぼくのことだけ見てなよ

「椿姫ちゃん、無理しないほうが…」
「だ、だいじょぶ……っ、」

ヤッバイ、チョー気持ち悪っ…。やっぱクレープは、ひとつがちょうどいいんだ。

わたしが欲張りなんてしたから、こんな目に遭うんだ…。どうしても美島に渡したくなくて、ティラミスのほうを丸々ひとつ食べようとしたわたしの胃を、この甘々なクリームが襲ってくる。

「頭、大丈夫?」
「は?今、なんて!」
「なに、ムキになって全部食べようとしてるの?食べれないなら、こっちによこしなよ」
「や、ヤダっ…」

美島がクレープに手を伸ばしてきたのを、クルンと周り美島に背中を向けた。

「なに、どうしたのさ。さっきは、おとなしくクレープ渡してきた……あぁ、なるほどね。そういうこと」
「な、なによ…」

なにが〝そういうこと〟なの!なにが〝なるほど〟なの!顔だけチラッと美島を見ると、クスッと笑ったその顔にブルッと悪寒がした。

「ぼくとの間接キスに、ドキドキしてるなんて、及川カワイイねぇ」
「は、はぁっ?そ、そんなんじゃないし!!」
「ははっ、バレバレだから」
「だから、そんなんじゃ…!!」
「はいはい、わかったよ。じゃあ、問題も解決したことだし、このクレープはもらうね」
「あっ…!」

わたしが声を上げた時には、もう遅かった。わたしの腕を掴んで、そのまま自分のほうへと引き寄せ、いとも簡単にクレープが美島の口の中へ入っていく。

固まってるわたしのことは無視して、ドンドンなくなっていくクレープ。