ぼくのことだけ見てなよ

「は、離してっ」
「イヤだよ」

そう言った美島は、わたしの腕をグイッと引っ張ったかと思うと向かい合わせになった。

「もしかしてさ、泣いてた?」
「っ、バカじゃない?なんでわたしが泣かなきゃいけないのよ」

キッ!と睨みつけると、美島の手がわたしの顔に向かって近付いてきた。

そしてビクッ!とするわたしのカラダ。美島の長い指が、わたしの目の下に触れたから…。

「ごめんね?」
「……っ、わたしだって、一生懸命、頑張ってるのっ」
「うん」
「美島は、頭いいから、わたしを、見てたら、イライラ、するかも、しれないっ」
「そんなことないよ」
「なのにっ、那津のほうが、いい、なんて、言われたら、もうっ……」
「うん。だから言い過ぎたって。ぼくはなにも見てないから、その目に溜まった雫だけ出しなよ」

泣くな、泣くな、と自分に言い聞かせて頑張ってたのに、美島が変なこと……抱きしめたりなんかするから、気が緩み慌てて美島の胸を押し返した。

「ちょっと…!」
「もう出したの?」
「涙なんか出ない!」
「だから、雫って言ったでしょ。これでも気遣ってんの。気付きなよ、バカ」
「またバカって言った!!」
「はいはい、ごめんね」
「そんな感情のこもってない、ごめんなんかいらない!」
「あーもう。ホント、手のかかる子」
「……っ!」

美島はなにを思ったのか、わたしからカラダを離すと、そのままわたしのおでこに、クチビルを押し付けてきた。

あまりにも驚きすぎて涙もカラッカラに引っ込み、そんなわたしを見た美島は「ほら、鈴井さんも待ってるよ」と言って、先に行ってしまった。