ぼくのことだけ見てなよ

松井は、わたしの言うことを聞いて、あの輪の中へと入って行った。

「ねぇねぇ、みんな。ここの席の子来てるからさ?悪いんだけど、ちょっと場所開けてくれるかな?」
「あっ、孝宏くん!ねぇねぇ、孝宏くんは彼女いるのー?」
「えっ、俺?いないいないー。募集中だよー」
「きゃー!募集中だってー!」

うっわ…全然あの手下、役に立たないんだけど。

松井は彼女たちを退かすどころか、鼻の下をデレッデレに伸ばして話し始めた。

「椿姫ちゃん、わたしの席のとこに来る?」
「あ、そうか。それがあったね。ありがとう、那津」

わたしが冷たい目で、アイツらを見ていると那津が気を利かせて言ってくれ、わたしは那津の席のほうへと移動した。

「ねぇ、那津」
「ん?」
「毎日、あーなるのかな…」
「あぁ…」

わたしの言葉を理解した那津は、苦笑いでわたしを見た。

「あ、チャイム鳴った。ごめんね、那津。わたし戻るね」
「あ、うん!またあとでね!」

席を立ち、うしろを振り返ると、美島の周りにはまだ女子たちが群がっていた。