ぼくのことだけ見てなよ

「お父さんが浮気してたことも多少は関係してるけど、先輩……好きな人に浮気されてたことがイチバン、ショックだった」

あの時の光景は、ゼッタイ忘れられない。浴衣姿で彼女の腰を抱いていた先輩の姿…。笑顔で彼女を見つめて、わたしは地獄へと突き落とされて…。

「ねぇ、今でも好きなの?」
「えっ?っていうか、なんでとなりに来るのっ」

美島の声がしたと思ったら、さっきまで向かいにいた美島が、いつの間にか、わたしのとなりに来ていた。

「いいから、質問に答えなよ。今でも、その先輩が好き?忘れられない?」
「……そんなことないよ。もう好きじゃない。でも初恋だったし、いい思い出もたくさんある。もちろん、イヤな思い出もあるけど…」
「そう。なら、問題ないよ」
「いやっ、問題ないって、それは美島が決めることじゃないし!」

わたしの気持ちの問題だもん。先輩のことは、もう好きじゃない。ただ、あの時の光景が忘れられないだけ…。

「もう、イヤなのっ…」
「なにが?」
「裏切られるのが!」
「ぼくは裏切らない」
「そんなのわかんない!」
「ゼッタイ、裏切らない。椿姫のこと、ずっと好きでいる」
「先輩だって、同じこと言った!」
「そんなヤツと、ぼくを一緒にしないでよ」
「………」

これ以上、どうすればいいのよ。どう言ったら、美島はわかってくれるの?

「そんなに信じられない?」
「……ごめん。カンタンには、信じられないよ…。もう、あの時みたいに泣きたくないの」
「そう。わかった。じゃあ、もういい」
「えっ…?」

美島の声も顔も急に冷たくなって、戸惑っていると伝票を持った美島がスッと立ち上がった。