ぼくのことだけ見てなよ

「那津っ!」
「わっ、椿姫ちゃん!どうしたの!?」
「那津、那津ぅ〜」
「え、椿姫ちゃん…?泣いてるの…?ちょっと待ってて、すぐ戻るから!」
「……ん」

泣かないって決めてたのに、那津の姿を見たら涙が込み上げて来て、思いきり抱きついてしまった。

ビックリしてた那津も、すぐに戻るからと、わたしは少しの間、1人で那津の帰りを待っていた。

「ごめんね、椿姫ちゃん。とりあえず、あっち座ろう?」
「…うん」

美島たちがいるほうとは反対側のベンチへ座った。

「なにがあったの?わたしに言える、かな…?」
「……松井に、好きって言われた」
「えっ」
「でも、ちゃんとお断りしたよ。っていうか那津が言ってた通り、美島の応援するって」
「そっか」
「そしたら、2人でいるところを美島に見られて、勝手に勘違いして、勝手に怒ってきた…」
「えっ、なにそれ!」
「松井が間に入ってくれたから、多分美島の誤解は解けたはずだけど、やっぱりわたし誰かと付き合ったりするのはヤダなって……」
「椿姫ちゃん…」

最初は驚いていた那津だったけど、わたしの話を最後まで聞いてくれた。美島がわたしに変な感情なんて持たなければ、こんな風に悩んだりしなかった。美島だって、イヤな気持ちにならなかったと思う。

「ごめんね、那津。変な話しちゃったね」
「ううん…椿姫ちゃんが隠さず話してくれて、嬉しかったよ」
「那津は、松井のこと頑張るんだよ?」
「椿姫ちゃん…」
「あ、そろそろ時間だね。行こうか、那津」
「あ、うん…」

時計を見れば集合時間が迫っていて、わたしはベンチから立ち上がると那津と一緒にバスへと戻った。

バスに戻ると美島たちはまだいなくて、わたしは那津に窓側の席を譲ってもらうと、帽子を深く被って寝たフリをすることにした。