地平線に吸い込まれていく橙を、二つの影が、じいっと見ていた。
腰上まで波に浸かって、男と女は橙が消えて空から深き群青が降ってきても、尚、微動だにしない。

「私、決してあなたの傍を離れたりしないから」

女は白く細い腕を伸ばして、男の頬を優しく撫でた。
撫でたそばから、男の頬を涙が伝う。

「泣かないで…これは私の為でもあるのよ」

女は真っ赤に腫れた目を細めて笑った。
細められた目には、うっすらと涙が浮かんでいる。

「俺とでいいのかい?」

蚊の鳴くような声で男が言うと、女は静かに頷いた。

「選んでくれて、有り難う。」

女の手を握り、男は囁いた。

「海に還ろう」

男は女の手を引いて、地平線に向かって歩き出した。
二人は月が登り始めた頃、静かに凪ぐ波の中に消えて行った。