「…混んできたから出ましょ
他のお客の迷惑だわ」





沈黙が流れる空間はあまり好きではないので

背中に置いておいた鞄を手に持ちながら立ち上がると

結が不思議そうな顔であたしを見上げてきた





「……何よ」


「あ…いや…

蝶子さんって
他のお客さんのこと
気にすることがあるんですね」


「……ッ!

別に良いじゃないの
たまたまよ…たまたま

ほら
ボケッとしていないで行くわよ」


「はいっ」





はー

危なかった

お客を大切にしてしまうのは

昔の癖ね





『やだっ
やめてっ

いやだあああっ!!』





幼い頃のあたしを思い出して

あたしは下唇を噛んだ