「……わお」

帰ってくると、ケントがいなくなっていたとかそんな夢の様な話はなくて、ユウヒ様の抱き枕を敷いて漫画を読んでいた。

「ちょっ、それはユウヒ様だからこっちにしてよ」

「ちっ……」

ケントは舌打ちをしながら、ぺしゃんこに潰れたユウヒ様を離してくれた。

代わりに渡したクッションに座る。

「座り心地が悪い」

「ユウヒ様を潰した天罰だ」

「な訳あるか、阿呆」

デコピンされそうになって回避すると、髪の水が跳ねた。


「お前……女子のクセに髪の毛乾かしてないのかよ。女失格だな」

ケントはため息をついて、睨んでくる。

良いじゃないか。私が髪の毛乾かしてないからってケントに影響しないんだし。

「うっ、うるさい……これは自然に乾くから良いんだって」

「阿呆。自然乾燥が一番髪に悪いんだ。将来禿げるぞ」

「そ、それは嫌だ……」

「じゃあ、乾かせよ」

と、言われましても……と、首を振った。

「もしかして、お前。髪の毛の乾かし方も知らねーの?」


「別に、髪の毛乾かさなくたって将来関係ないし、困らないから必要がないから良いんだ」

「今禿げるって言ったばかりだぞ」

あげあしを取る奴だ。

けれども口が上手じゃない私は、ケントをあっと言わせる様な返答が出来ない。


「じゃあ、教えてくれるの?乾かし方知ってるんでしょ?」

はっはっは、仮にも女である私の髪の毛はケントよりも長いから、簡単に乾かせまい。

私を馬鹿にした罪だ。

素直に出来ないと言うが良い。


「おい、下僕。ご主人様にやってもらおうなんて良い度胸してんな」


あ。

そう言えば。


昨日言われた言葉が脳裏をよぎった。


“お前、俺の下僕決定”


「お前のクラスメートに言ってやっても良いんだぞ。“ルルちゃんは、三次元に恋する女である”ってな」

「そ、そ、そ、それは、止めろ……て、下さい」

ニヤニヤ、意地の悪い笑顔を浮かべているケント。

笑うならもっと、優しく笑って欲しいんだけど。


「なら、言い方は違うだろ」