解放の本

誰もいない。ということは、幽霊。怖くてすぐ閉めようとしたとき……

「やっと気付いてくれる人がいた!」

陽気な声が聞こえた。声の正体は……

「私はここに住んでた子爵の娘、意代子(いよこ)。蕎麦と芋が好きでいつも食べていたんだよ」

なんと、蕎麦芋子爵のお話のあの子だった。

「あの……どうして私に……」

「頼みごとがあるの。今日、願いを叶える本を持ってる子が来たの。でも、悪いことしてるらしいんだ。だから、それを止めてくれないかな」

願いを叶える本……空操禁書……空操禁書が関わっているなら放っておけない!

「わかりました!」

「ありがとう!でも今は外に出ちゃダメなの。時間が来るまで私の話聞いてくれる?」

どうして今はダメなんだろうと思ったけど、まあいいかと思って話を聞くことにした。

「蕎麦と芋をずっと食べたのは本当。死ぬまで続いたよ。だんだん飽きてきたけど、アレンジをして何とかしたんだ」

「そこまでして、芋と蕎麦を食べなければいけなかったんですか」

「ある日突然、蕎麦と芋の料理を最低でも3食は作っていたの。無意識に。材料も自然に発生したの。でも3食作ってしまえばあとは自由だった」

蕎麦と芋のアレンジ料理の話をしていたのにいつの間にか好きな人の話になる。

「本当に綺麗な人だった~1年に1~3回しか会えなかったけど……ある日、思い切って告白することにしたの。でもライバルも多くて……美人でお金持ちの子が、私のところに来たら毎日最高級の刺身が食べられるわよと言って食べ物で釣ろうとしていたの」

意代子ちゃんの好きな人は横白 昴(よこしろ すばる)という人で、背が高くてかっこよくて何でもできる完璧な人だったという。

「私も負けじと、(本当に)毎日蕎麦と芋が食べられますよと言ったの。結果は美人の女の子だったわ」

意代子ちゃんは残念そうに言う。でも、蕎麦と芋か刺身だったら刺身を選ぶ。

「桃子ちゃんは好きな人はいるの?」

好きな人……そもそも男の子と一緒にいることが少なかったから……

「あっ時間が来ちゃった。大変だと思うけどよろしくね」

もっと話していたかったなと残念そうな顔で意代子はドアを開ける。意代子は、どれくらいの時をここで過ごしたんだろう。

「これが終わったら、また話せばいいよ」

私がそう言うと、意代子は笑って無事に戻ってきてねと言った。