その頃笑莉は、避難場所でとある人と話していた。

「太部で流行っている病気はカルバクロール家の魔女なら治せるんだよ」

おばあさんは、カルバクロール家についていろいろ教えてくれた。ずっと昔、魔女狩りがあった時代にここに逃げてきて、それからこの地域に住む人の病気を治してきたらしい。

「けれど、病気にかかったとき見和さんは治療を拒否した。」

「なぜ、見和さんは治療を拒否したんですか?」

病気は治したほうがいいに決まってるのに……

「今はそんなことを言う人は滅多にいないけどねぇ、昔は太部にいるだけで病気になると言って差別されてきたんだ。学校に太部の人たちを差別する人がいたから、太部にいても病気にならないということを証明したかったらしい」

話を聞いてなるほど、と思った。確かに治療を受けていることがわかったら、本当に病気になると思われてしまう。

「でも、誰も止めなかったんですか?このままじゃ病気は治らないのに」

「皆、見和さんは間違えないと思っていたから止めなかった。頭も良く、優しくて、幼いころから神童や天使と言われてきて、見和さんも自分は間違えないと思ってしまったのかもしれない」

その病気は、進行すると人格に支障が出てしまうらしく、治療しなかった見和さんは冷酷な性格となってしまった。

私は、話してくれた人にお礼を言ってその場を去った。

見和さんはきっとほめられすぎて、自分が正しいと思い込んでしまったのかもしれない。けれど、人を正すためには、昔の自分より良い自分となって人々を引っ張っていかなければならない。

そして、見和さんを過信した人にも問題があると思う。だって、見和さんはまだ大人じゃないのに。この事件は、いろいろな人の心の問題が重なって起きた事件だ。

私は今から太部に行く。きっと、自分なりの正義とほかの人の意見も理解しようとすることができれば、心の問題は、案外簡単に解決するから。