アリスは、異世界で死んだ。
だから、亡骸もなく、皆からの記憶からも消された。


アリスのことを知っているのは俺だけだった。


葬式もなく、アリスの両親もアリスの存在を知らない。


家にあるアルバムの写真を見せても思い出さなかった。


アリスが消え、俺は取り残されたような気がした。


あのとき、俺も死ねばよかった。


アリスと共に。



俺はあれ以来、学校には行くけど、授業は一切受けなかった。

ずっと旧校舎の図書館で、アリスが最後に読んだ本を読んでいた。


アリスの顔を思い出しながら。



だけど、なぜかアリスの顔が思い出せない。
忘れたくないのに。


その度にアリスと二人で撮ったら写真を見たりして、なんとか記憶を保っている。


でも、最近はアリスとは実在した人物なのかもわからなくなってきた。


いたのか、いないのか。



記憶は徐々に失われていた。



そんなときだった。

あの噂を耳にしたのは。



俺が図書館の机に伏せて眠ろうとしていると、女子生徒が入ってきた。


「ねえねえ、ここだよね。あの噂の場所って。」

「うんうん。てゆーか、本当に白ウサギなんているのかな?」

「さあね。でも、それを確かめに来たんじゃない。」

「だけど、もしも『アリス』に会ったら、殺されちゃうんでしょ?」

「うん。だけど、どうせ噂だし。それに『アリス』が現れるのって、ごくまれなんだって。」

「じゃあ、大丈夫だね。よし、じゃあカウントダウンしよう。1分間、ずっとやったらいいんだよね?」

「うん。いくよ~。せーの、59、58…」



『アリス』という言葉に反応してしまった。


それに、このカウントダウンを聞くと、あの日を思い出す。


世界が消滅するまでのカウントダウン。


まさか。いや、やっぱり、『アリス』って言うのは、中条 アリス…?


まだ君はいるのか?



俺はカウントダウンを静かに見守った。


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1!」


だけど何も起きない。


「ほらね。やっぱりあんなの嘘だって。」


ところが、突然どこからか白いウサギが走ってきた。


「きゃあ!?」


女子生徒は悲鳴をあげた。

そして、それと同時に天井に穴があき、そこから人が落ちてきた。


そこにいたのは…


「アリス!」

俺は思わず叫んだ。