その後、授業が始まった。
赤い頭巾の話なんて忘れてしまったのかと思うくらい静かになった。
誰もそのあとは赤い頭巾の話はしなかった。
昼休みになった。
「よお。」
「悠太。どうしたの?」
「一緒に食べようぜ。」
「いいよ。」
悠太は私の彼氏。
幼なじみでもあり、昔から仲がよかった。
屋上で食べることになった。
屋上はいつも人がいないから静かに食べられる。
「俺、今日の放課後に図書館に行こうかと思ってるんだ。」
「ええ?!あんな話信じるの?」
「あの赤い頭巾を触る。」
「な、何言ってるの?!も、もしもあの話が本当なら戻れないかもしれないんだよ?」
「だからそれを確かめるんだよ。一応、スマホで動画録っとく。」
「…。」
「何だよ。心配なのか?」
「べ、別に!今まで行方不明者なんていないんだから、そんなのあるわけないし。調べるだけ無駄だと思うけど?」
「いや。実は俺、あることに気づいたんだ。今までの卒業アルバムを図書室で借りて見たことあるんだけど、去年の卒業生に誰も知らない生徒がいたんだ。」
「え…?」
「しかも、一人だけじゃない。5人いたんだ。俺の仮説だけど、もしかすると別世界に行ってしまった人は、この世の人の記憶から消されてしまうんじゃないかって思うんだ。だとすると、行方不明者がいないのもわかる。」
「え。じゃあ、悠太はみんなの記憶から消されるの?!」
「いや。わからない。戻ってこれたら大丈夫だろうけど。戻ってこれなければ―」
「いやだ!行かないで!」
私はつい大きな声で叫んだ。
ここが屋上でよかった。
「はは。そんなに心配することないだろ。記憶がなくなるんだから、何も悲しくなんかないさ。」
「記憶を消されるのが嫌なの!」
「だから、戻ってきたら大丈夫だよ!必ず戻るから。それに、あくまでこれは都市伝説だし、赤い頭巾すら現れないかもしれないんだし。」
「う、うん…。」
「まあ、大丈夫だよ!」
「や、約束だよ。絶対戻ってきてよね!」
「はいはい。」
「絶対だからね!」
「わかったよ。じゃあ、お守りを渡しておくよ。これを取りにまた来るから。」
そのお守りは二人でお揃いで買った、縁結びのお守り。
「うん。じゃあ、持っておくからね。」
「よろしくな!」
悠太は消えてしまうかもしれないというのに、私に笑顔を向けてきた。