「ヤバイ!昨日、赤い頭巾見ちゃった!」


朝から教室は噂話で持ちきりだ。

「ねえ、アリス。図書館の噂知ってる?」

「え?赤い頭巾の話でしょ?」

「うん!あれを神田さんが見たんだって!」

「へー。」

「あれ?興味ないの?」

「だって、ただ単に落ちてただけって可能性だってあるじゃん。」

「えー…。」


この学校にある都市伝説。

『赤い頭巾』。

放課後の旧校舎の図書館に一人で行くと赤い頭巾が現れ、それを手に取ると別世界に行ってしまうという話。


この話は昔からこの学校にあったらしくて、結構有名だ。


でも、人によって話の内容が違っていて、どれが本当かもわからなくなっている。


ある人は、別世界に行ったら戻る方法はないと言う。

ある人は、戻る方法はあるけど、それはとても難しくて奇跡でも起きない限り戻れないと言う。



まあ、どうせどれも嘘だと思う。


この世にそんなことがあるわけないもの。



「ねえ、今日の放課後、アリス行ってみてよ!」

「はあ?何で私が?」

「あっれぇ?アリス、びびってんの?」

「違うわよ。こんなくだらない噂話を信じて行くのが嫌なのよ。」

「えー。アリスが行ったらなんか面白いなと思ったのに。」

「何で?」

「だって、赤い頭巾ってなんか『赤ずきん』って感じじゃん?そこに『不思議の国のアリス』が行ったら、夢の共演!みたいな!」

「そんだけ?!」

「うん。まあ、アリスが嫌だったら別にいいんだけど。」



結果的に行かないことになった。


私は少し安心した。

実を言うと、少し怖いと思っていた。


だから、行けなくなってよかった。


「にしても、アリスってさ、なんで『アリス』って名前なの?」

「え?あ、えっと…、お母さんが『アリス』が好きだったらしくて、それで私につけたんだって。」

「へー!なんかいいな~!私なんて、『さくら』だよ?桜って散っていくから縁起悪いのに。」

「でも、『さくら』って名前いいじゃん。桜は花が散っていくのが美しいんだから。だから、最後まで美しいって捉えることもできるよ?」

「あー!確かに!なんか納得!」


いつのまにか名前の話になっている。


でも、確かに『アリス』って名前、珍しい気がする。

だけど、私は自分の名前を気に入っている。