息をするのも苦しいくらい重たい空気の中で、はじめに動き出したのは日野彩芽[ヒノ アヤメ]だった。 彩芽は未央たちクラスの学級委員。 彼女は腰までのびた艶やかな黒髪を左右に揺らしながら、迷いのない足取りで教卓に近づいて、 「先生……?」 ”口”に触れようとした。 彩芽の白く細い指先が、”口”の下唇に近づいていく。 あと十センチ、あと二センチ……。 もう少しで触れそうになったとき、”口”がパクリと開かれた。