「理子は俺のことどう思ってるの?」

視界の片隅に、恐ろしいほど真剣な表情をしているであろう、蛍の顔が見える。
運転中でよかった。
蛍のあんな表情を真正面から見る勇気は理子にはなかった。

「…どうって。好きか嫌いかって聞かれたら好きだけど。」

言いながら、自分でも吐き気がするセリフだと思った。
私はいつのまに、こんな答えのしかたを、覚えたのだろう。

「俺は理子が好きだよ。」

痛いくらい真っ直ぐな蛍の言葉に理子は一瞬目を閉じた。

「理子が今までどんな恋をしてきたとしても、俺が一番理子を好きだよ。」

「やめてよ。」

堪えきれなくなって、理子は車を路肩に寄せた。
ハンドルに両手を置いたまま、蛍をにらみつけた。

「私たち、いくつ年が離れていると思ってるの?」

「12歳。」

蛍も負けじと理子をにらみ返した。

「付き合えるわけないでしょう?」

「なんで?」

「きっとすぐにダメになる。軽々しく好きだなんて一時の感情で付き合っても、そんなのすぐに終わりが来る。」

いつだって、この恋だけは終わらないと思って、それでも必ず終わりはきた。

「そんなの、聞いてない。理子が俺を好きなのかそうじゃないのか知りたい。」

「蛍くんって本当バカ。好きに決まってるじゃない。」

好きなのだ。
私は蛍が好きだと、理子はその時はっきり思った。
だから、苦しいのだ。
好きだから。