理子の耳はとても小さい。
小さくて白くてまるで貝殻みたいだと蛍は思う。

そのことを理子に言うと、そうかな?と首をかしげ、そんなこと初めて言われたなぁ、とおっとり笑っていた。

その一言は、蛍の胸をあっという間に幸福で満たしてしまった。
彼女の耳のかわいらしさに気付いたのは俺が初めてなのか、と。
きっとたくさんの初めてを他の誰かとしてきた理子にとって、こんなことはきっとたわいもなくすぐに忘れられてしまうのだろうけど。

真剣な顔で運転している理子の耳に、小さく光る水色の石を見ながら、蛍は無意識に自分の鼻のピアスをさわっていた。

理子の耳がとても小さくてかわいらしいことも、左耳だけホールがふたつあることも蛍は知っていた。

そのホールのひとつに、いつもピアスを入れていないことも。

お揃いで。

その言葉はいかにも子どもっぽい、と蛍は思う。
実際に、仲がいいことを確認するみたいに、双子コーデなんて言って全く同じ服装をしているクラスメイトの女の子たちをバカじゃねぇの、と思って見たりもしていた。

そんな自分が、お揃いでピアスをつけようだなんて提案し、半ば無理矢理につけさせて喜んでいる。

こういうことしてるから、ちゃんと男として見てもらえないんだろうなぁと頭では分かっていても、この気持ちは押さえきれなかった。

「理子とお揃い、まじうれしーわ。」

理子は一瞬だけ、こちらを見て、またすぐに前を向いてしまった。
運転中なのだ。
だけど、蛍は嫉妬してしまう。
理子が真剣に見つめる前を走る車にさえ。