紫苑 -SHION-



震える手をギュッと握る。




『棗、帰るぞ』


『あ、皐月、待ってよー!』



目を閉じると幸せだった日々を思い出す。



やっぱりもうあの時には戻れないの……?



「…俺はあんたの顔を見たくもない」



冷たく刺さる言葉に目に熱いものがたまるけど、必死に抑える。



もうずっと名前も呼んでくれていない。



「皐月……やっぱりあの時のこと……」


「うるさい」



ギロッと睨まれてビクッと肩が上がる。



ねえ、どうしてこうなったのかな。


私、皐月の隣にいられるだけで幸せだったのに。



もう無理なのかな、という思いが一瞬脳裏をよぎった時。



『皐月のことが大好きだって、話してたらわかるぐらい、幸せそうに笑うんだよ……』


『だから、ちゃんと棗ちゃんと向き合って……!』



紫苑が私の為に皐月に言ってくれた言葉を思い出した。


もう、私の想いは私のものだけじゃない。



私が諦めたらダメだ。



「話はそれだけ?」


「……」



返事のない私にため息を吐いた皐月は、



「俺帰るから」


壁から背中を離し、歩き出した。



「……っ…」



ねえ、皐月。


もう私の気持ち、無視しないで……!