「うそ……でも、今までそういう素振り見たこと……」
ない、と言おうとして、止まる。
そういえば、一度、呼びかけても反応がなかった時がある。
左から声をかけた時だ。
「気づかれないようになるべく紫苑の左にいるようにしてたから……」
苦笑いを浮かべる棗ちゃん。
確かに、思えば出会った時から棗ちゃんは私といる時は左にいることが多かった。
「中学の時に聞こえなくなって、何度か生活にも支障が出ることもあったけど、気づかれないようにずっと過ごしてた」
「……」
「これからも誰にも言うつもりなかった」
でも……と、私を見て笑った。
「紫苑になら伝えてもいいと思った」
「っ、」
「私も、紫苑は大切な友達だよ」
「…〜っ」
いつもの明るくて眩しい笑顔に、キラリと光るものが一筋見えた。
「あーもう、先輩達のことも左耳のことも、誰にも言うつもりなかったのになあ……」
紫苑のせいだからね、と笑う棗ちゃんに、私も泣きながら笑う。
「棗ちゃん、ありがとうっ……」
私に伝えてくれて。
笑ってくれて。
「でも、これで皐月にもっと嫌われちゃったかなあ……」
涙を拭いながら、力なさそうに笑う棗ちゃん。
「先輩達も言ってたけど、本当は皐月も鬱陶しく思ってるかもしれない」
「そんなこと……だって、さっき皐月は棗ちゃんのこと守ってくれたよ……?」
「……ううん、もういいんだ」
フルフルと首を振る。
「もういいって……」
「だって、もうどんなに頑張っても皐月は私のことを見てくれないよ」
違う……それは違う。
違うなんてそんなこと私にもわからないけれど、でも、こんな弱気な棗ちゃんは棗ちゃんじゃない。
いつも皐月を想って、頑張れる女の子だって私、もう知ってるよ。


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