紫苑 -SHION-



「あの、棗ちゃん」


「……」



あれ?聞こえなかったのかな?



「……棗ちゃん?」



もう一度呼びかけてみるけど気づかなくて、湊君が棗ちゃんの腕を叩く。




「棗、紫苑ちゃん呼んでる」


「え!?ごめんね!ボーッとしてた」




焦ったように私の方を向いた棗ちゃんに、大丈夫、と答える。





『俺には強がってるように見えるけどな』



あれから、朝の湊君の言葉が脳裏にちらつく。



聞きたいことはあるのに、聞いていいのかわからなくて口を開いてまた閉じるを繰り返す。




「……紫苑?」


「あ、ご、ごめんねっ…やっぱり何でもない」




ふるふると首を振って笑うと、棗ちゃんは聞きたそうにしながらもそっか、とそれ以上は聞いてこなかった。





「……湊!」


「へっ!?」




思わず変な声が出て、慌てて手で口を抑える。


びっくりしたあ……。


ああ、またみんなの視線が痛い……。





「突然大声出して何?」


「私、止まらないから」


「……」


「もうあの時みたいに後悔したくない」


「……」



「冷たくされたって、鬱陶しがられたって、私行くから。とにかく今は自分が後悔しないようにしたい」


「…そっか」




湊君がクスッと笑った。




と、とりあえず、皐月へのアピールは止まらないってことだよね……?




「ってことで、今から皐月のところ行ってきます!」


「え!?」



今から!?



棗ちゃんは素早くお弁当を片付けて、それじゃあ、と笑顔で教室を出て行こうすると。




「…棗」


「もー、何!?」



時間が惜しい、というように止められたことに少しイラっとしている。




「皐月のクラスわかんの?」


「……」


「……」


「……」



あ……という顔に明らかに答えが書かれていた。