紫苑 -SHION-





「あのさー、堅苦しいから敬語やめろ」



「え、でも……」



先輩なのに……。




「紫苑ちゃん、こいつらに遠慮なんかしなくていいから」



「おい、湊。……まあ、最初から先輩に敬語使わねえ奴は大っ嫌いだけどな。目上の人を敬う。それが礼儀だろーが」




足を組み替えながらソファの背もたれに腕を伸ばす達己さんは、上から目線みたいなことを言っているように聞こえるけれど、礼儀に厳しいだけなんだと思う。


ごめんなさい、ちょっと意外です……。




「な?そんな達己が言ってるから大丈夫だよ。晴も皐月もいいよね?」


「ああ」


「別に」



そんな風に言われたら断れるわけもなく、



「じゃあ……お言葉に甘えて……」


「おー」



達己さんは満足そうに笑った。

なんだか、ちょっと印象上がったかも。




「あと……」


まだ何かあるのかな?

ニヤッと笑った達己さんに首を傾ける。



「晴のこと、呼んで」



「へ?」



思わず変な声が漏れて、慌てて口を手で覆う。




「な、何でですか?」


「敬語」


「あ…………何で?」


「いいから、ほれ」




顔をガシッと捕まれ、晴さんの方に向かされ、バチッと綺麗な二重の目と目が合う。



わ、なんかよくわからないけどドキドキしてきた……。




「は、」


「……」


「は、る…さん…?」




ポツリと蚊の鳴くような声だった。


相変わらず、晴さんは無表情なままで、なんだか目を合わせているのが気まずくて俯く。




「……晴」


「…え?」



しばらくして聞こえた声に思わず顔を上げる。




「晴、でいい」



ソッと笑ったその顔がすごく印象的で目に焼き付いて、何よりかけられた言葉にポカン、と固まってしまった。