[湊side]
「何だあいつ……」
走り去っていく彼女の姿を見ながら、ぽつりと達己が呟く。
「ピュアだねえ」
ほんと、初々しい反応っていうか。
「にしてもあの子、確か同じクラスだったはず……。名前なんだっけ……」
確か何か花の名前だったような……。
「……紫苑」
そうそう、紫苑ちゃん。
「……って、何で晴が知ってんの?」
紫苑ちゃんと俺は1年で晴と皐月と達己は2年なのに。
やっぱり初対面ではないのかな?
でも、紫苑ちゃんは初めて会ったみたいな感じだったし……。
晴は俺の言葉を無視して、図書室の中に入って行ってるし。
「ちょっ、晴ってばー」
その後を追いかけて、俺達3人も中に入る。
奥のソファに晴が座り、俺と達己は向かって右のソファ、皐月は左のソファに座る。
「で、何であの女が晴の学ラン持ってたんだ?」
足を組みながら、皐月が眉を寄せて不服そうな顔をする。
皐月は女が好きじゃないから。
「……ここで寝てたから貸した」
へえ、寝てたんだ…………って
「それ本当!?」
「マジかよ!?」
俺と達己は驚いて声を上げる。
達己なんかニヤニヤと、面白いことを発見したかのように笑う。
ほんと、こいつは退屈凌ぎしてくれるものなら、普段の面倒くさがりなところもなくなる。
皐月は冷静に晴を見て口を開く。
「晴って、他人がここに入るの極端に嫌うくせに何で?」
「……気になるから」
「……は?」
ポカン、といつものポーカーフェイスが崩れるほど驚いたらしい。
俺も開いた口が塞がらない状態だ。
達己は暇つぶしが見つかったからか、両腕を頭の後ろに回して口角を上げたまま。