「手なんか繋いでんの、会社の人間に見られたら薫が困るだろ?オレなんかが相手じゃ恥ずかしいもんな。」

「えっ…。」

志信の冷たい視線に薫は固唾を飲む。

「オレ帰る。じゃあな。」

「ちょっと待ってよ…。」

「いいよ、無理して一緒にいてくれなくて。オレなんかじゃ釣り合わないのわかってるから。じゃあね、卯月さん。」

志信は薫に背を向けて、一人で歩き出した。

薫は志信に言われた言葉が信じられなくて、その場に立ち尽くしたまま、遠ざかっていく背中を呆然と見送った。

離れて行く志信の背中が、ぼやけて見えた。

志信の後ろ姿が見えなくなると、薫は時おり手の甲で涙を拭いながら、にじむ街灯りの中を歩いた。

(大好きなのに…どうして…?)