もっと、君に恋していいですか?

スタッフたちにそんな噂話をされているとは露知らず、2階のオフィスに戻った薫は、マネージャーに声を掛けた。

「お疲れ様です。」

「お疲れ様。」

マネージャーはパソコン画面から目を離す事なく薫に返事をした。

難しい顔をして、何やら書類を作成しているようだ。

薫は2つのグラスに冷たい麦茶を注ぎ、ひとつをマネージャーのデスクに置いた。

「ここ、置いときます。」

「ああ、ありがとう。」

薫はタオルで汗を拭いて、冷たい麦茶を飲みながらタバコに火をつけ、ブラインドの隙間からグランドの様子を窺う。

(キャンペーン初日は大盛況だったな…。)

傾いてきた陽の光の眩しさに目を細めながら、短くなったタバコを灰皿の上で揉み消して、麦茶を飲み干した。

使ったグラスをシンクに運び、たくさんの使用済みのグラスを洗って水切りかごに乗せ、空になった冷水筒をゆすいで水と麦茶のパックを入れた。

(これでお茶足りるかな。)