「あ、蒼空!」
透が驚嘆の余り、声をあげる。
「んー」
彼の瞼は完全に閉じられ、尚も私は彼の腕の中にいた。
正直なところ、現状に頭が着いていけない。
身動きをとろうにも、絡められた腕や足が動くことを阻止する。
あぁ、これは困った。
非常に困った。
男の人にこんなことされるなんて、生まれて此の方無いんだもの。
「ったく、そういうことやるなら部屋でやれよな」
え、どうしたらそういう反応へと至るの。
助けて、くれないの?
「蒼空、まさか優那ちゃんのこと抱き枕とでも思ってるの?………蒼空ならあり得そうだけどさ」
抱き……枕?
呆れ気味に言う、夕。
私の脳内には疑問符しか浮かばなかった。
「抱き心地最高」
「ええと」
そんなことより、早くこの状態から脱出したい。
「さすが蒼空だよ。そのマイペースさは僕も見習いたいくらいだね」
感心してないで助けて。
すんすん……
「ん、いい匂い」
「ひゃっ!?」
首元に鼻をうずめて匂いを嗅がれた。
「蒼空!そろそろ離れてあげなさい!」
「……透がいうなら仕方ない」
スッと解かれた腕から脱出した。
何が起こっていたのか一瞬わからなくなる。
「び、びっくりした……」
「綾瀬蒼空。よろしく。これで良い?」
「よしよし、よくできました。ってことで、なんかグダグダになっちゃったけどこれからよろしくね」
「凪宮優那です。よろしく。えと、お母さんに、甘党に、短気に、マイペースさん。」
一人一人の顔を見ながら私はそう告げる。
「お母さんで」
「甘党で」
「短気で」
「マイペース?」
「ん?違う?」
こうして、私の男子に囲まれた寮生活が始まるのでした。


