「透の笑顔ってあったかくてお日様みたい」




「え、そうかな」



照れているのか、頬をほんのり赤く染めた。



「うん。いつも見守ってくれてるような……保護者みたいな?」




「ほ、保護者……。まあ、あの3人をみてるとと危なっかしくて目が離せないってところはあるかも」




「私のことも見ててくれる?」




「へ?」




「私、なぜかいつもあの3人に絡まれるから」



透だけが唯一の救いだ。



「あ、あぁ、そういうことね……うん見てるよ」




「ありがとう」




「っ」



透の頬は、一層赤くなった。



「どうしたの?」




「なんでも、ないよ」





「そう?あ、でね、私良いこと思いついたの」


昨日の夜思いついたことだ。



「良いこと?」




「夏休みになったら皆でどこかに行こう」




「いいね、それ。寮に居ると外出とか滅多にしないしね。夏だから、定番の海とかどう?山もいいと思うなあ」




「どっちも楽しそう。海なら砂遊びしたり海で泳いだりして、山なら魚釣りとか川に飛び込んだり、キャンプファイヤーもできるね。でも、皆予定とかないの?家に帰ったりとか」





「去年も皆帰らなかったし、多分大丈夫だと思うけど、一応確認してみようか。優那ちゃんこそいいの?」





「お母さんは田舎だし、お父さんは戻ってきたみたいだけど仕事で忙しいから。連絡は電話とかで出来てるし帰る必要はないかな」





「お父さん、会えなくて寂しいだろうけどね……。それにしても、優那ちゃんのお父さんが戻って来てるならなんでわざわざ転校させたんだろう」



そういえばそうだ。なんでだろう。



「さあ。別に前の学校で特に思い出もないし、私はここにきて透や皆に出逢えたからよかったと思うよ?」




「僕も優那ちゃんと出会えてよかったよ」


今度、お父さんとお母さんに連絡してみよう。


わざわざ転向させた理由、手紙のことも聞きたいし。





それから、少しの沈黙が続いた。



「ねえ、透。もし……もしも記憶を、家族以外の全てを忘れてしまったとして、思い出したいと思う?」




ふと母からの手紙の内容を思い出す。




きっと何か考えがあって母は私をここへ入れたに違いない。



理由は聞いてみないとわからないけれど。



「急にどうしたの」



「小説にそういう設定があったの。記憶が無いだけで生活にさほどの支障はきたしていないとして」



また嘘をついてしまった。




「それでも思い出したいかな。それまで楽しかったこともすべて忘れてしまったら、ずっとモヤモヤしたままになってしまうと思う。家族との思い出が楽しければほかはどうでもいいなんてことなんて絶対にないから。無くしたものは取り戻さなきゃ。そのままにするのはかわいそうだよ。思い出って大切だと思うから」





「そうかな。色々な方法を試して、それでも思い出せないままで何年も過ぎてしまったら、もう思い出すことなんて出来ないって思う。だから諦める。後ろばかり見ていないで先を見ることも大切でしょう?戻ることなんてできないんだから、後ろなんてただの痕跡にすぎないじゃない」



何年経ったって思い出せない。


もしかしたら、そこまでいい思い出なんてなかったんじゃないかな。


悲しいばかりの思い出とか嫌な思い出ばかりで。



だから思い出せない、必要ない。



前を見ろってことなんじゃないの?



「戻ることは出来ない。でも、やっぱり俺は過去も必要だと思う。もし何か約束事をしていたとしたら?とても楽しい思い出があったとしたら?」




「それが、悲しくて嫌な思い出だったら?思い出したくないんじゃない?」



私は、思い出したくないと思い出したくないとまでは思っていないけど。



「誰にだって嫌な思い出はある。だけど、必ずいい思い出だってある。俺はそう思ってるよ。違う?」



「そうだね。その子も、思い出せるなら、思い出したいって、言ってたもの」


思い出せるなら……ね。




「本当に思い出せるのかな。」





「え?ごめん、良く聞こえなかったんだけど……」




「ううん、なんでもない。答えてくれてありがとう」



お母さんがここの学校にヒントがあるって言ったけど、つまりはここに誰か会ったことのある、関係のある人がいるっていうこと?


でも、見つけ出すなんて出来っこないよ。



何せ、この学校には数えきれないくらいの生徒が居るんだから。



「どう致しまして」



「じゃあ、まだ少し時間あるし、本の続き読んでくるね……」



「行ってらっしゃい。あ、そうだ、その小説読み終わったら貸してくれない?俺も気になって来ちゃった。どんな物語なのか____」





透から少し怪しいオーラが見えたのは気のせい?




でも困った。そんな小説、私が持ってるはずないんだ。




私のことを話したのだから。




「あー、うん。でも私読むスピード遅いし、その小説1000ページ以上あるから遅くなるけどいい?」



ちょっと無理があるかな。



「へえ、結構長いんだね。気長に待ってるよ」





その期間でどうか忘れてください。




透と目を合わせまいと足早にリビングを後にした。
























「表情でバレバレだよ、優那ちゃん____」