「救急箱っ……」
棚の上に置かれた箱を、背伸びをして取ろうとする。
取れそうで、取れない。
「ほい」
後ろから手が伸びて、意図も簡単にそれを取ってしまった。
「あ、ありがと、真」
「どういたしまして」
救急箱の中から1枚絆創膏を取り出すと、切った人差し指に貼った。
「……お前、あの手紙のこと本当か?」
「手紙?」
ああ、確か真に見られてしまっていたんだっけか。
すぐ近くのキッチンにいる透には聞こえないように顔を近づける真。
「記憶がないってこと」
「っ……やっぱり読んだんだ。そのあとは読んだの?」
「いーや、俺が読んだのはそこまで。だってお前すぐに隠しただろ」
「そう、ならいいけど」
「で、本当なのかよ。記憶がないって」
「本当だよ。小4の事故以前の記憶はほとんど。家族のことははっきり覚えてるんだけど」
「お前はそれでいいのかよ」
「うん、別に困りはしないから。
ほんの少しは思い出せたつもりでいるし。
学校に復帰して皆の顔見て、あぁ、こういう人たちと過ごしてたような気がする、ってね」
「それ思い出せてないだろ」
その通りだ。
「つもりだから」
「ようやく分かった。あの時どうして曖昧な返事をしたのか。記憶がないから俺と会ったことあったとしても分からない、ってことだろ?」
「そういうこと」
「きっとお前は俺に会ったことある」
「真だって曖昧なくせによく断言できるね」
「残念ながら俺はお前とは違って多少の記憶は残ってる。違ってたらこんなに詮索はしねぇよ」
「そこまでして思い出したいこと?」
「あぁ。俺さ、小さい頃同い年の女の子と約束したんだよ。何を約束したから忘れたけど」
約束………真と?
まさか。
「あ?どうした。そんな間抜けヅラして」
「間抜けヅラなんてしてない。ただちょっと……手紙のこと思い出してた」
「ずっと気になってたんだよ、何を約束したのかを。なのに、当の本人は忘れてる……か」
「ごめんなさい」
「仕方ないだろ。もし思い出せることがあったなら、言えよ」
それだけ言うと真はソファに座りテレビを見始めた。
またもやもやすることを投げられてしまった。


