翌朝、私は早速こき使われるそうで、部屋まで呼び出された。
「真、何?」
「入れ」
真の部屋に入り距離を置いていると、近くまで来いと言われ、仕方なく近づいた。
「で、何の用でしょーか……」
「ネクタイ結べ」
「ネクタイなんかいつも付けてないくせに」
「うるさい!付けろって言ってるんだから付けろ!」
「はいはい」
赤色のネクタイを手にし、真の首元へと近づける。
不器用な父のネクタイを結んでいたこともあり、慣れているから容易いものだ。
「はい、出来た。これでいい?」
いつも付けてないのは、付けてると苦しいからなんだろう。
だからあえて少し緩めに結んであげた。
「よし」
「このくらいのこと、わざわざ部屋に呼ばなくてもリビングで言ってくれればいいのに」
「お前に確かめたいことがある。だから呼んだ」
「確かめたいこと……とは」
急に真剣な表情になった。
「お前、昔、俺と会ったことあるだろ」
「……いつのこと。覚えてない」
小4以前のことだとしたら、私は知らない。
覚えていないからだ。
「ごめん、分からない。もしかしたら会ったことあるのかもしれない。だとしても、私は分からないから」
「は?どういうことだよ」
「機会があったら話す」
曖昧な返事をして私は真の部屋を出た。
別に曖昧にする必要なかったんだけど。
"事故で記憶を失いました"
って言えば良かったのにね。
今は今、昔は昔。
過去が無くたって今があればいい。
今までそう自己解決して生きてきたんだもん。
今更揺らぐ必要は無い。
「さ、今日の朝ごはんは何かな」


