「ねえ、蒼空」
レーンに並び、バトンが来るのを待つ蒼空と透。
「なに」
「蒼空も何かいろいろと隠してるみたいだけど、それって優那ちゃんのため?」
「っ……透には関係ない」
蒼空の顔が渋る。
「2人に何があったかは知らない。だけど、本人が望むことにも答えてあげないの?大切過ぎるから?」
「そんなの……」
「でも、もし蒼空にとって優那ちゃんがそんなに”大切な相手”なら、そんなじっとしていていいの?」
「それってどういう……」
「俺、優那ちゃんのことが好きだよ。この勝負に勝ったらデートしてもらう約束もした」
「っ……!」
「優那ちゃんのことが好きな以上、じっとはしていられないって気づいたんだ」
「……勝手にすれば。俺は……」
トラックの地面を小刻みに蹴る音が、背後から近づく。
右手を伸ばし、仲間がテイクオーバーゾーンに入ったのを確認すると、少しずつ動き出し、バトンを受け取る。
先に透が受け取り、そのほんの少しあとに蒼空。
手にバトンが握られた瞬間、一歩でも前を行こうと全身が前へ前へと動き出す。
「(俺は……優那が大切だから……だから……っ)」
いろんな思いが心を掻き乱しながらも、ただひたすら地面を蹴る。
目の前を走る透まであともう少し。
透も、今回ばかりは本気のようで、1位を独走する。
「っ蒼空!……がんばれ!」
クラスの応援席を通った瞬間、声を振り絞って蒼空の名を呼ぶ優那の姿が見えた。
他の女子でも誰でもない優那の声が、はっきりと耳に届く。
「っ……」
瞬間、蒼空は一気に加速する。
ゴールは目前。
バンッ!
ピストルが鳴り、ゴールを知らせた。