どこかで聞いた声がする。この声にあまりいい思い出がない。
「おい。初めての仕事はどうだった。」
やはりこの声はやつしかいない。そう園田一徹。やつがいるということは仕事の話だ。
「どうもこうもねぇよ。たかが万引きを阻止する仕事って俺の仕事じゃないだろ。」
こんなめんどくさかったような言い方をしているが真自身は正直嬉しがっている。
「万引きを阻止する仕事!?お前なんの話をしているんだ?」
一徹は少し不安そうな顔になった。そして話し出した。
「いいか、よく聞け。この力は通称killblock(キルブロック)と言う。つまり、死を阻死する力な訳だ。だが、お前は見事に万引きを阻死しただけだ。まだ、万引き犯がどうなったかは情報が入ってきていないが、いずれ入ってくる。どうせ情報がきた時は万引き犯の死んだ情報だろうな。」
この説明を聞き、真は頭の中が真っ白になった。
「まー、まだ死んだかわからないが、死んでしまったらそれはしょうがない。次はしくじるなよ。またな。」
そう言い、一徹は煙のように消えていった。

夢から目を覚ました真は、急いでインターネットでニュースを見た。小さい事件からすべて調べた。すると、"万引き犯が逃走中に交通事故で死亡"という記事を見つけた。真は恐る恐る詳しい記事を見た。
記事の内容は、真が万引き犯を捕まえた商店街から200m程離れた大通りで信号無視をしたトラックにひかれた、と書いてあった。横に万引き犯の写真まで載っていた。真が捕まえた人と同一人物だった。
「嘘だろ...。」
真は自分が殺人を犯していないがそれと同等の精神状態になってしまった。

どうにもできないこの気持ちを押さえ込む。混乱する気持ちを押さえられず真は家を飛び出した。向かった先は犯人の事故現場。

「くそっ!こんなところに来ても意味がねぇのに!」
真は、体が勝手に来てしまったかのように、事故現場に来た。すると事故現場に一輪の花が添えられていた。そしてその前に一人の女性がたっていた。気づいたら真はその女性に話しかけていた。
「あの、すいません。この事故に関係してる人ですか?」
「いいえ、ただ仕事の関係で一度現場に来ただけなんです。」
「仕事?警察の方でしたか?すみません、失礼しました。」
「いや、警察ではないですよ。」
警察ではない仕事で現場に来ることがあるのだろうか。親族の方なのだろうか。真は疑問に思いながら質問をした。
「あ、警察の方ではないんですね。失礼しました。じゃあ親族の方ですか?」
「いえ、違います。」
そう言って二人の間に少しの沈黙が流れた。
「(やばい、どうしよう。なんで知らない人に話しかけてるんだ俺は!)」
真は心の中でパニックになっていた。
だがここで女性が動いた。
「あなたは、この事故についてなにか知っていますか?」
「俺は...」
真は話し出そうと思ったが、少し戸惑った。なぜなら自分の持っている力の話をしても信じてもらえないと思ったからだ。
「俺は...事故については知らないんですが、事故前に被害者と会ってるんです。俺も仕事の関係で会ったんですけどね。」
「そうだったんですね。失礼ですけど、お仕事は?」
「すみません。あまり言えないです。」
「そうですよね。すみませんでした。」
そう言うと女性は行ってしまった。

真は何も解決しないまま家に帰宅した。あの時、真が話しかけた女性はなんだったのだろうか。謎が残ってしまった。
また、真にとっての心の傷も残ったままであった。

偽善者 第三章 完