「ちょっと! お前らなんで立ち止まってんだ、俺一人でずんずん進んで馬鹿みたいじゃねーか! ってなに笑ってんだ?」


一人、先に進んでいた部長が顔を赤くしながら戻って来る。

状況がよく分からないのか、きょろきょろとそれぞれを見て回った部長は、彼が洗濯かごを持ちつつ顔を背けている様子から、何が起こっているのかを察したようで。


「なにしてんだ紫苑先輩!」

「ぶふっふ、……なに? 私は手伝ってもらったらって言っただけよ?」

「いや確信犯っすよね!?」


汗臭さは努力の結晶って何回言ったら分かるんすか、と木村に詰め寄っていた。



“楽しい一秒と苦しい一秒なら、楽しいほうがいいと思うんすけど”。


部長にそう言われて初めて、彼は自分が苦しい時間を過ごしていたことに気が付いた。

ただ、それは勉強自体が苦しかったわけではない。無意識のうちに自分に自分でプレッシャーをかけて、勉強がすべてだと思い込んで、周りが見えなくなっていたからだった。

部長の言う楽しい一秒というのは、きっとこういうくだらない時間なのだろう。