――気がついたら、季節は冬になっていた。
二月。
まだ、雫ちゃんの本当の笑顔を見たことはない。
「ただいま」
「博、おかえり」
学校から帰ってくると、エプロン姿の雫がお出迎えしてくれた。
俺が彼女の呼び方を「雫ちゃん」から「雫」に変えたのは、夏が終わった時期だった。
雫が俺に心を開いてきているのは、わかっている。
だが、俺はまだ本当の雫を何一つ知れていない気がして、少し怖かった。
「今日の夕飯はね、ハンバーグだよ」
料理上手な雫は、夕食を毎日作ってくれている。
せめてもの恩返し、だそうだ。
そんなのいいのに、と言っても
雫はいつもの作り笑顔で言うんだ。
『頼りっぱなしは嫌だから。私にできることがあるなら、やりたい』って。



